遠州ブランドスピリッツ

STORY

地域の日常を「食」でささえる

2016.09.05
■レポート/入河屋五代目善治郎 

昨年、創業130周年をむかえた浜松市・三ヶ日町の老舗菓子店【入河屋】が、この春、新たにベーカリーをオープンした。これまでにも、地元の素材を使った多くのお菓子を生み出してきた入河屋がつくるパンには、どんな想いが込められているのだろうか。三ヶ日本店に併設されたベーカリーを訪ねた。

【第1話】

毎日の暮らしで、必要とされるものを

震災で感じた、食の大切さと自分たちの使命

午前10時の開店と同時に、ベーカリー「入河屋五代目善治郎」に入ると、カウンターのケースの中やテーブルの上に、焼きたてのパンが並んでいました。自然素材をふんだんに使った店内は、明るい光がさしこみ、通路の向こうからは、菓子店の常連さんとスタッフとの、楽しげな会話が聞こえてきます。
店の名前にもなっている、五代目の松嵜善治郎(まつざき ぜんじろう)さんが、店の奥から出てきて、商品の説明をしてくれます。

どのパンも、見た目から入河屋さんらしい、素材の良さと上品さが伝わってきます。パンは全部で30種類ほど。中でも、和菓子に使っているものと同じ、自家製の餡が入った「五代目のあんぱん」や「あんバタークロワッサン」は、すでに人気商品となっているようです。
ベーカリーを始めた理由をうかがうと、開口一番、「実は、パンにこだわっていたわけではないのです。」と松嵜さん。ご自身を含め、ご家族みんな、ごはん党ということもあり、普段からパンを食べる機会はあまり多くなかったそうです。そんな松嵜さんが、ベーカリーを始めたいきさつが、気になります。

「理由はいくつかあるのですが、会社として、これからどういう方向に進んでいこうか、数年前から考えていた中で、東日本大震災が、大きな変化のきっかけでした。

災害のような非常事態のときに、人が生きていくために必要なのは、水と食べ物です。食品をつくる私たちは、普段から材料を蓄えているので、地域の『食糧庫』のような存在です。大震災があったことで、その部分の大切さ、意義深さに、あらためて気づいたのです。」
「お菓子も、生活を豊かにする上で必要なものですが、これからの入河屋としては、主食のような、より日常に根ざしたものもとどけたい、という想いが強くなりました。

さらに、もしものときにも、食を通して地域の役に立てれば、と思ったのです。その意味では、おむすび屋でも良かったのですが、私たちはお菓子屋ですので、お菓子づくりの経験も生かせる、パンをつくることにしたのです。」

「つくり手の目線」でパンを見る

ベーカリーを始めるまでは、パンづくりの経験がなかった松嵜さん。オープンの半年ほど前から、独学でパンづくりのノウハウを身につけたそうです。

「自分が食べたいと思うパンをつくりたかったので、誰かに習うのではなく、自分の経験と味覚をたよりに、レシピを考えました。最初は、家庭用のホームベーカリーを購入して、本を見ながらつくるところから始めました。

あとは、いろいろなお店のパンを食べ比べてみて、世の中でどんなパンが売られているかを把握した上で、入河屋のパンは、どの方向に持っていこうかな、ということを考えました。」
そこから約半年間で試作を繰り返し、店にならべる商品として、松嵜さん自身が納得のいくパンを完成させました。今では、松嵜さんのレシピにしたがって、お店の職人さん全員で、分担してパンを焼いているそうです。

「パン党ではない自分だからこそ、パンが好きではない人でも『食べたい!』と思えるパンができたのではないかと思います。」と松嵜さん。

あくまで「つくり手の目線」でパンを見ていらっしゃることに、職人としての使命感をかいま見ることができます。

つづく

■PROFILE

入河屋五代目善治郎

老舗菓子店・入河屋が2016年5月にオープンしたベーカリー。有機栽培などの体にやさしく滋養のある素材や、地元で採れたこだわりの食材を使った、約30種のパンを販売しています。イートインコーナーもあり、コーヒーとともにランチやカフェでの利用もできます。

■ホームページ:http://www.irikawaya.co.jp/

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