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STORY

五代目 和菓子職人の挑戦

2014.03.24
■インタビュー/巖邑堂 内田 弘守
【第5話】

東京、海外、そして浜松

支店を出さない、本当の理由

T巌邑堂さんは、支店は出されてないですよね。
内田祖父の代からずっと「支店は絶対に出すな」と言われています。自分も支店を出したい、と思ったことはありません。どちらかといえば、出さないほうがかっこいいと思っていました。

これまで支店を出さない理由としては、品質管理の問題と、輸送することで鮮度が落ちるという、その2点が大きな理由でした。

でも、30、40年前はそうだったかもしれませんが、今では遠方でも夕方に作ったものが、翌日の朝には店頭に並ぶので、自分の店で、朝作って夕方に売るのとあまりタイムラグがありません。しかも、百貨店などは管理基準が厳しいので、それに合わせた管理が必要となります。つまり、支店を出さない問題点は現代ではクリアできるので、状況的には支店を出してもいいのではないかと思っています。
Tなるほど。
内田一方で、支店を出すことは手間もかかるし、自分としても、機械で量産して売れるお菓子を目指しているわけではないので、必要なければ支店は出したくありません。ただ、今の現状ではそれでは経営的に厳しい面もあって、このままやっていけば、奉仕活動のようになってしまいます。「文化や歴史、店を守る」ということもいいのですが、奉仕活動では続きません。
Tそれは確かに、そうですね。

面白いから、真剣になれる

内田従業員もそうですが、夢や目標があればお菓子の勉強もするけれど、今のままでは夢や目標を持つこともできません。支店を出したいわけではないのですが、より良く店が繁栄するようなことにはチャレンジしていきたいと思っています。
T例えば、どんなことでしょう?
内田まず海外へ行くことは僕の夢であったし、面接に来た子にも、「俺は海外に行ってお菓子を作りたい」と言うと、「いいですね」と目がきらきらしていました。そういうふうに、みんなが「面白そうだな」とか「かっこいいな」と思うことがその先にあれば、いろいろなことに真剣になれると思います。そういう意味でも、海外に行こうと思っていました。

実際に行くと自分も面白いし、注目も浴びます。その結果として、従業員も「海外で自分が考えたお菓子が売れるのならば、考えよう」と思ってくれます。利益はまだ出ていませんが、従業員や自分の目標にもなるので、海外は継続してやっています。
T今は、海外ではシンガポール等で販売をされているんですよね?
内田今はシンガポールの売り上げが一番多いですね。全部日本で作って、週に1回冷凍で輸送しています。デパートに年に2回、期間限定で出店しているのと、それ以外に、シンガポールの日本食レストランとすし屋とホテルに送っています。

浜松にあることの意味

Tいろいろな所に「巌邑堂」という名前が出ていくことと、この浜松にお店があることのバランスは、どう考えていますか?
内田自分の中で一番大切なのは浜松の店ですが、それは自分の人生にとって大切なもので、だからこそ、どんどんチャレンジしていくことが一番重要なことだと思っています。そのバランスを取るために、最終的には店のためになることはやろうと思います。興味本位に、「損をしても面白そうだから行ってみよう」、ということでは自分が強過ぎて、それも何か違うと思いますし。最終的には店のためになることを選択するようにしています。
Tでは今後も、拠点としては浜松で続けていくと?
内田そうですね。ただ、ちょっと避けられそうにない大きな事情があって、今の場所でお店を続けるか、他の場所に移転するか、考えています。
Tそうなんですか?
内田どうしようかと、すごく迷っています。でも、自分が一番こだわっているのは、先祖が始めたあの土地で、ずっとやっていきたいということです。歴史のある店は、そんなに転々としては駄目だと思うんです。どんなにさびれても、そこには何かないといけないと思うんです。
内田東京で9ヶ月間店をやったときに、最終的に自分が思ったことが、「浜松」と言わなければ良かったということだったんです。一番ショックだったことなんですが、そういう瞬間が何度もあって。
Tそれはなぜですか?
内田お客さまが商品を見て、店構えを見て、きれいな店だなと寄ってきて、「どこのお店ですか」と聞かれて、「浜松です」と答えると、「浜松っておいしいものがあるんですか?」とか、「浜松の和菓子ってピンとこないわね」と言われて。それが一番印象的で、浜松はそういう印象だったのか、ということを感じました。
Tそういうイメージなんですね・・・。
内田その一方で、浜松出身の人はうちの看板を見ると喜んで来てくれるんです。「巌邑堂さん、出ているの」とか、「うれしい。小さいころによく食べたわ」と言って、今は東京に住んでいるという方が応援してくれます。浜松でやっていく意味は、こういうところにもあるんじゃないか、ということも同時に感じました。でも、「浜松にはおいしいお菓子がない」と言われることはショックなので、何とかしなければいけないと思います。
T浜松の和菓子のイメージをつくりたいということですか?
内田うちの名前なんて、東京へ行っても誰も知らないと思うので、もう少し名前が出て、「浜松においしい和菓子屋がある」と言われるようにならなければいけない。それは、自分の店のためでもあるし、浜松のためにもなると思います。

2014年2月






■PROFILE

巖邑堂

明治初年の創業以来、伝統の技法で昔ながらの和菓子の味を守る、老舗の和菓子店。定番商品の他、季節ごとの和菓子も人気です。一部の商品は通信販売でも購入可能。浜松駅より徒歩5分。



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