秋野不矩美術館をたずねて

2015.03.30
天竜市の繁華街を少し外れたところに、秋野不矩美術館がある。
絵画は自分の好みで鑑賞するだけだが、ここは建築物としてのおもしろさでもよく知られているので、眺めの良い公園のような感覚で足を運んでみた。
駐車場から山手を見上げると、ユニークな形の建物が見え、少し急なS字の坂道が続く。その坂を登り切ると美術館がある。古木で作られたベンチが点在し、建物の背後には天竜の町並みを見下ろすことができる。
木製の自動ドアを開けると、漆喰の壁に囲まれた空間が広がり、美術館でよく見かける併設のカフェやショップなどはない。そのせいか、美術館特有の張り詰めたような空気感はなく、藁が入った漆喰の壁には、どこか和みやすい温もりが感じられる。そして何といっても、入館してすぐ靴を脱ぐスタイルにびっくりする。

まず最初の展示室は床が藤ゴザになっていて、一歩中に入ると、絵画よりも足裏の凹凸感に気を取られる。その凹凸感が足に馴染んでくる頃には、通路のような細長い展示室を抜け、次の展示室に進むことになる。第二展示室は天井が高く、床は大理石、壁は白い漆喰。広々とした真っ白の室内の4面に絵画が展示されている。中央に座り込んで鑑賞している人もいて、学芸員の方が、絵画がやや低めに展示されているため、直に座って鑑賞することを勧めてくれた。
玄関で靴を脱ぐ、床に直接座り込むというのは、考えてみると何とも日本的だなと思う。

折しも春。進学や就職の季節でもある。新しい生活が始まる人、大きな変化はなくとも年度初めにどこか気持ちを新たにしたりする人も多いだろう。4月にスタートを迎える季節感もまた、日本人らしい。

一般的に美術館というのは、特別展に合わせて足を運ぶことが多いだろうが、秋野不矩美術館は、混みにくい常設展をあえて選び、美術館とは異なる側面を満喫できる場所でもある。日頃の喧騒や慌ただしさから一時逃れ、日本らしい空間を日本人らしい感覚で堪能してみてはどうだろうか。

COLUMNIST

Kimiko Hirade

浜松市天竜区の最北・水窪町出身。健康で安心安全なライフスタイルに注目。山も海もある浜松の自然を生かし、人にも地球にも優しい日常生活の、更なるグレードアップを目指している。

go to pagetop