青崩峠までの塩の道

2015.08.31
かつて海辺から内陸に塩を運ぶために使われた“塩の道”。古い地図を見ると全国各所に見られるが、北遠地区を通る秋葉街道も、その塩の道のひとつとして知られている。
ほとんどが整備された重要な生活道路になっている中、水窪町から信州に抜けるあたりは、山道が残されていて観光名所のひとつになっている。残暑の厳しい最中、暑さと喧騒を逃れて、この塩の道を歩いてみた。
スタート地点は水窪町。道には石が組まれていたり木が置かれてあったりして、ハイキング感覚の歩きやすい観光ルートになっており、青崩峠までは20分ほどで到着する。
足を滑らせないよう踏みしめ踏みしめ上る坂道は、意外と息が上がるものの、空高く伸びている木々のおかげで陽射しがやわらかい。立ち止まれば風がなくても涼しく、さらに石や木に青々とむした苔で視覚的にも涼感が増す。途中に小さな沢があり、手を入れてみると、その水は全身の汗がひくように冷たかった。
木、草、水といった自然に触れる心地良さだけでも満足だが、そこはかつては物流で栄えていた場所ということで、遠い昔を想像してみた。
途中、武田信玄が三方ヶ原の戦いの際に腰掛けたと伝えられる岩がある。付近には、北條時頼が痛めた足を治したことに由来する足神神社がある。今とは風景が全く異なっていただろうが、同じ場所を歴史に名を残した武将たちも歩いたかもしれない。
また、足神神社の脇にある湧水には今も水を汲む人が多いように、この道にも絶えることなく人の姿があったのかもしれない。
自分が今立っている場所に、かつてあったであろう場面だと思うと、なんとも不思議な気分だった。
山登りには、山頂の清々しさや雄大な景色を味わうといった醍醐味があるが、青崩峠は虫の声と草木を揺らす風の音が聞こえる中で、木々の間から山の稜線がわずかに見えるだけで、特別なものは何もない。
しかし、だからこそ、想像力や思考が研ぎ澄まされるような気がした。ひっそりとした観光名所は、想像力を駆使するそんな静かな楽しみ方を教えてくれたように思う。

COLUMNIST

Kimiko Hirade

浜松市天竜区の最北・水窪町出身。健康で安心安全なライフスタイルに注目。山も海もある浜松の自然を生かし、人にも地球にも優しい日常生活の、更なるグレードアップを目指している。

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