佐久間町の避暑地で懐かしのお菓子

2015.07.28
35℃を超える真夏日、暑さの和らぐ身近な場所を求めて、佐久間町の北條峠に行ってみた。北條峠は佐久間町の城西で152号線を横道に逸れ、細い山道を15分ほど車で上っていったところで、そこでは目線とほぼ同じ高さで山々の稜線が見渡せる。陽射しは強いが、高いだけあって、森林を通って吹き抜ける風が心地良い。人影もまばらで、避暑地のようにエアコンなしで涼しいひとときが過ごせるのだが、眺望や涼しさに加えて、かつての山里の生活に触れられるのも、北條峠の魅力である。
山道を進んだ先に忽然と現れる“民俗文化伝承館”、おそらく訪問したことがある人は少ないのではないかと思う。江戸時代末期の住宅を移築した建物そのものが、典型的な農家の造りになっていて、その中で古民具や土雛などが展示されている。まるごとすべてが、昔の生活文化や風習を表しているのだが、おもしろいのは、目に見えるものだけでなく、味の伝承も行われているところ。
週末と祝日に、地元の女性グループ“野田やまびこ会”が“峠そば処”を運営し、地元の味を伝えている。朱塗りの高膳で提供される料理は、地元の食材を使った手打ちそばと郷土料理のセットで、季節ごとに変わるお惣菜と、“とじくり”という2品の郷土料理が付く。
“とじくり”という料理は、米粉とそば粉に炒った大豆と砂糖を加えて丸めたお菓子。お釈迦様の頭の形に似ているということで、そもそもはお釈迦様の誕生日の“灌仏会”に作られたと言うが、身近な食材だけで作れることや、ある程度保存もできることから、北遠地区では定番のお茶菓子だったらしい。もっちりした食感でほんのり甘く、ひとつでも食べごたえがある。田舎らしい素朴さで、現代のお菓子に類似したものがないため、逆に新鮮な感じがする。

今では家庭で作ること自体、めっきり少なくなっているらしい。文化財の保存管理も大変だろうが、味の伝承というのも、不確かで消えやすいのかもしれない。決して豪華なものでないが、お菓子の類の郷土料理というのは珍しい。避暑のついでに、この“とじくり”が少しでも多くの人の味覚に残り、細々ながらも長く伝わっていってくれたらいいと思う。

COLUMNIST

Kimiko Hirade

浜松市天竜区の最北・水窪町出身。健康で安心安全なライフスタイルに注目。山も海もある浜松の自然を生かし、人にも地球にも優しい日常生活の、更なるグレードアップを目指している。

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