土着の道具を語る その3「機織(はたおり)」

2015.09.23
道具をキーにして遠州を見つめる第三弾は、知る人ぞ知る織物の産地「遠州」にまつわる巨大精密道具を紹介します。
参考:「遠州織物の良さを、多くの人に届けたい」

遠州地方は、「日照時間」と「温暖さ」そして「夏の水の確保が可能」という、綿花栽培に適した自然条件に恵まれています。そのおかげで、まずは「綿花産地」となったのではないかと思います。
そして、綿を布にする「織物」についても、伊勢神宮に「神衣」を貢進する神事を行う「初生衣神社(うぶぎぬじんじゃ)」(浜松市北区三ケ日町岡本)があるように、深い由緒と長い歴史があることがわかります。
参考:「『織物のまち』のルーツにかける想い」


綿を糸に紡ぎ糸にし、糸を織って布にする。「衣食住」の最初に並ぶ「衣」を整える作業のクライマックス「織り」では、江戸時代後期には「機織(はたおり)」と呼ばれる巨大精密道具が開発され、用いられました。

童話「鶴の恩返し」でおつうさんが「ぎっこんばったん」とやる、あれですね。時代や地域で構造の差はありますが、例えばこんな形をしたものです。
この道具のメカニックさが、伝わりますでしょうか。
右側手前の斜めになっている板に人が座り、「ぎっこんばったん」とやります。ダイナミックかつ繰り返し行われるこの動きを実現するために、この構造物には、体重を支えるだけの堅牢さと、動く機構を支える安定感と、繰り返す際の磨耗に耐える硬さが必要です。

また同時に、「糸を織る」作業は大変な精密さも必要とされます。織物は、張ってある経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を通して作られていきますが、経糸同士の隙間は、つまり糸一本分なのですから、1mmにもならないわけです。経糸を通す部品は、櫛の歯のような、ごく細い隙間をきっちり保持する硬く細密な加工がなされています(筬(おさ)と呼ばれる部品・写真左下にある部品のうち、3つ並んだ長方形のもの)。

さらに、人の手の動きと足の踏み込みの力を織るための各メカニズムに伝える仕組みこそ肝心。紐や簡単な歯車、滑車を用いて、この機織は作られています。

さて、それらの技術は、脈々と私たちの今の暮らしに活かされています。そうです、遠州地方で創業したスズキ自動車やトヨタ自動車は、織物機械の製造をそのルーツとします。
スズキ自動車の歴史
トヨタ自動車の歴史


綿花栽培に適した気候の遠州地方で、織物が発達し、織機の進化は構造体や精密さや動力についての経験を生みました。同時におそらく、道具を改良していく面白さ・ものづくりの楽しさを味わうマインドも育てた。

歴史を俯瞰して見てみたら、最後の一端が自分の生活の一部に影響していた・・・という発見を、機織を通してぜひ味わってみてください。見れば見るほど、複雑でもあり精密でもあり、また、それがほぼ全て木製か竹製で、驚きます。

機織を常設展示:
浜松市市民ミュージアム浜北

写真:浜松市博物館提供・掲載承諾済

COLUMNIST

Saiko Hakamata

大学卒業後、東京に本社を置く企業に6年間在籍、計10年を東京で過ごす。30代に入り、故郷・浜松にUターン。高校卒業以来の遠州ライフを楽しんでいる。

go to pagetop